施工保守編<その2>
17_光ファイバセンサはどのような場所で使えますか
電気式センサが使える場所では基本的には全く問題なく適用可能です。光ファイバセンサは様々な環境で利用できることは前述(6-1-2)していますが、実験も含め水中、地中、高温・低温、腐食環境、強電磁界環境、電源が取れない場所、放射線環境や圧力密閉環境での利用が可能です。ここでは適用場所による特徴的な施工時の留意点を述べます。
1.水中(例:河川の水位、海水・湖水温度測定など)
水中への設置例としては、河川の水位計測や、海水・湖水などの温度計測があります。水中へセンサなどを設置する場合には、耐圧特性と遮水性が充分かを必ず確認して下さい。水質による腐食に留意して下さい。布設後は静置して使用する場合は、水に浮かない光ファイバを選定するか、錘を付けて沈下させて下さい。水中での鉛直方向の延線の場合は、光ファイバの降ろし部に最大の荷重が掛かります。許容張力範囲内であることを確認して下さい。適切な延線作業を管理するためには荷重計を使用して下さい。水中ロボットなどの移動により光ファイバが延線や巻き取りがある場合は、水と同じ比重で、浮力と自重が同じであるのが理想です。深海での高圧下では軟らかい樹脂シ-スは縮み、浮力が変化します。この変化量が許容範囲内であることを確認して下さい。下水道の場合は、腐食性のガスである硫化水素と鼠の咬害対策が必要です。海水中では塩素に対する留意が必要です。
2.地中
地中への設置例としては、6-3-4で述べる傾斜計の設置や、地中内部温度測定などがあります。地中へセンサなどを設置する場合には、土質による腐食や蟻害に留意して下さい。表層土には水があることと動いていることに留意して下さい。表層土の動きを検知する光ファイバセンサでは相対的な位置変化しか測定できません。絶対的な動きを測定するためには、GPSや動かないと考えて良い構造物などの基準点を設定する必要があります。深い地中では硫化水素と塩分の有無を確認して下さい。
3.高温・低温
高温および低温での計測例としては、加熱炉などの耐火材やLNGタンクなどの温度計測があります。光ファイバセンサによる温度測定は液体窒素温度-196 ℃から500 ℃くらいまでの適用実績があります。最近は液体ヘリウム温度-269 ℃や1000 ℃までの検討がなされているようです。高温領域では光ファイバに使用されている石英系ガラスの結晶化が進行すると伝送損失が増加しますので留意して下さい。光ファイバに樹脂系の被覆が採用されている場合は、その樹脂の気化温度や燃焼温度だけでなく、熱分解ガスの成分と発生温度にも留意して下さい。熱分解ガスに水素が含まれていると光ファイバと反応し、伝送損失が急激に増加します。低温側は樹脂シ-スが硬くなり脆化します。急激な低温化の場合は、冷却を不均一に受けると光ファイバに剪断力が生じますので留意が必要です。適用温度範囲が広い場合は、光ファイバの構成材料である石英系ガラス、樹脂や金属の熱膨張係数の違いにより、材料間にズレが生じることがあり、局所的にマイクロベンドが発生し伝送損失が増加することがあります。光ファイバセンサで歪を測定する場合は特にこの点に留意して下さい。
4.腐食環境下
腐食環境下とは、たとえば、高温岩体で生じた水蒸気の回収井の温度管理、海洋構造物の歪管理などを計測する場合が該当します。腐食環境は様々な要因で生じます。腐食は化学的反応のみとして理解しがちですが、力学的や物理的な要素も加わった複雑な反応として考慮する必要があります。特に見落としがちな腐食現象を述べます。
(1) 残留応力下の腐食は応力腐食割れが発生しやすい
(2) イオン化傾向の異なる物質間では電気腐食が発生しやすい
(3) 隙間では腐食原因となるガスの液相と気相間の平衡圧が大きくなったり、溜まった粉塵などに吸着し残存しやすくなったりして、腐食が加速する(このような腐食を隙間腐食という)
防食技術は各分野で様々な経験や技術があります。その耐食技術の考え方の内容を以下にまとめます。
(1) 耐食材質を選定する
(2) 耐食用の表面処理をする
(3) 塗膜処理をする
(4) 電位差をなくすために防食電流を流す
(5) 電気的絶縁を施す
5.防爆構造が必要な環境
防爆構造が必要な環境としては、LNGタンクやガス導管、原油タンクや化学プラントなどが該当します。爆発がどのような原因で生じるのかを理解する必要があります。限られた空間の中で圧力が急激に上昇し、その圧力が一挙に開放され周囲に伝搬する現象を爆発と考えてみます。その主な原因を以下にまとめてみます。
(1) 化学反応に伴う体積増加や高温化
(2) 液体や固体の気体化による体積増加
(3) 核反応に伴う高温化
容器が耐圧構造であり、化学物質が爆発限界外で安定している状態であれば問題ないのですが、容器が十分な耐圧構造でなかったり、爆発限界内の状態になったりする場合があります。一般的には、空気との混合ガスを対象として防爆を考慮しています。爆発限界内の状態にある混合ガスは着火すると爆発します。着火原因の主要な1つとして電気エネルギに起因する着火要因が挙げられます。特に、正常な状態でも発生しうるア-ク、スパ-クや異常加熱部などに留意する必要があります。また、地絡事故にも留意する必要があります。光ファイバセンサではこの点を考慮する必要はありませんが、レーザ光の漏洩による異常加熱部の発生の有無や受光部の起電力の状況、光センサとして導電材料が使用されている場合の通電性などを考慮する必要があります。
6.強電磁界環境下
強電磁界環境下での計測例としては、変圧器内のオイル温度管理、高圧送電線鉄塔の変状モニタリングなどがあります。光ファイバセンサでは光を検出手段にし、測定対象の物理・化学的変状を光そのものの物性の変化として捉えている方式がほとんどです。したがって、一般的な電気通信で問題となる電磁ノイズは検討する必要はありません。一方、光は電磁波であるのでファラデー効果を利用して、磁場の強さによる偏波面の回転を検知して電流センサとして適用したりする場合があります。すなわち、位相差や偏波に関する場合は留意が必要です。
7.電源が取れない場所
給電未整備箇所は至るところにあります。山の中、海の中、電気端末が近くにない場所、誘導電流などで電線を設置できない場所など様々です。電気的センサには電気を流す必要があるので、電源を準備しなければなりません。蓄電池、太陽光発電、携帯用発電などが必要です。一般的に光ファイバセンサは、測定器に内蔵されている光源から光ファイバに入射した光を利用しています。また、光ファイバの小さな伝送損失を利用し、長距離の測定が可能になっています。したがって、光センサを機能させる電源を近傍に設置する必要がありません。数km離れた地点に置かれた測定器のみに給電することだけで済みます。もちろん、測定対象がある場所と測定器までを光ファイバで布設する必要があります。布設ル-トを検討する必要がありますし、一般の光通信用の光ケ-ブルがある場合は、シングルモ-ドの光ファイバをセンサとして利用することができる場合もあります。
8.放射線環境下
放射線環境下での計測例としては、放射性廃棄物の貯蔵容器設備のモニタリングや、サイクロトロンのコンクリート亀裂などがあります。部材およびセンサの劣化については、中性子線を受けると金属材料が脆くなるという放射脆化と材料が放射化することや他の放射線でも樹脂材料の低分子化が進行し機械的強度が低下することに留意して下さい。光ファイバも透過力の高い放射線を受けると伝送損失が増加します。(関連章6-1-2-3)
9.圧力密閉環境(高圧・低圧)
圧力密閉環境下での計測例としては、油圧タンクの圧力計測や、真空加熱炉の温度計測などがあります。光ファイバは静圧状態ではかなりの高圧にも耐えることができます。動圧状態では光ファイバに引張や剪断応力が生じ切断に至る場合があります。保護構造を考慮すべきです。低圧に関しては、問題なく使用できます。ただし、高圧・低圧環境下での密閉性を保持するためには、光ファイバを密閉容器から取り出す部分におけるシ-ル構造が必要です。使用する圧力と温度および光ファイバの許容曲げ径などの機械的強度を考慮して検討する必要があります。