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光ファイバセンサ概論(6)

基礎編<その1>(10)

基礎編<その2>(10)

基礎編<その3>(10)

基礎編<その4>(3)

設計編<その1>(10)

設計編<その2>(3)

施工保守編<その1>(10)

施工保守編<その2>(10)

施工保守編<その3>(7)

コラム(11)

コラム

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C08_光相関領域法によるブリルアン散乱を利用した分布型光ファイバセンサ

事務局
 ブリルアン散乱は、光ファイバに入射した光に対して約11 GHzだけ周波数が低下した後方散乱光です。この周波数シフト量は、歪ならびに温度に対して線形に変化するので、このシフト量(ブリルアン周波数シフト:BFS)を測定することで、光ファイバに加わる歪や温度の変化を知ることができます。
 光パルスを入射して、ブリルアン後方散乱を時間の関数として測定することにより、光ファイバに沿う位置の関数としてBFSを測定することができますので、分布型光ファイバ歪・温度センサが構成できるわけです。これがBOTDRと呼ばれる技術です。ここで、空間分解能は光パルスの幅で決まります。1 mの空間分解能を得たい場合は、1 m幅の光パルスを伝搬させます。光パルスはその幅に反比例したスペクトル線幅を持つことになります。1 m幅の光パルスは約100 MHzのスペクトル線幅を持つ光となります。一方で、ブリルアン散乱スペクトルの線幅は、通常の光ファイバの場合、約30 MHzです。このスペクトルが最大値となる周波数が歪や温度を教えてくれるBFSですが、1 mの光パルスは既に100 MHzの線幅を持っていますので、空間分解能を1 mにすることは歪や温度の測定精度の低下を伴ってしまうことになります。つまりBOTDRの基本システムでは、空間分解能と歪や温度の測定精度との間にはトレードオフの関係があります。
 最近、BOTDRを改良して、歪や温度の測定精度を保ったままで空間分解能を高める新しい技術が幾つか誕生していて、数10 cmや数cmの分解能も達成されています。しかし、特別な光ファイバが必要であったり、測定されるスペクトル形状が複雑になったりする場合もあります。また、高い空間分解能を得るためには、速いデータ取得速度を有する電子的測定機構(AD変換器など)が必須となります。たとえば、1 cmの空間分解能を実現するには、数10ギガサンプル/秒の測定速度が必要です。
 そこで提案され、開発が進んでいる技術に、光パルスを用いずに連続光によって位置分解を可能とするブリルアン散乱に基づく光ファイバ分布型センシング技術があります。ブリルアン光相関領域解析法(BOCDA:Brillouin Optical Correlation Domain Analysis)とブリルアン光相関領域リフレクトメトリ(BOCDR:Brillouin Optical Correlation Domain Reflectometory)と呼ばれる技術です。
 BOCDA法では、誘導ブリルアン散乱を活用します。つまり、光ファイバに両端からポンプ光とプローブ光を入射して対向伝搬させます。両光の周波数には予めBFSに等しい周波数差を与えてあり、誘導ブリルアン散乱が起きるようにしてあります。これに加えて、BOCDA法では、レーザの発振周波数を周期関数で周波数変調します。このようにすると、光ファイバに沿うほとんどの場所ではポンプ光とプローブ光の周波数差が時間変化してしまうので、誘導散乱は起きなくなります。しかし、ある特別な場所では、両光の絶対周波数は変動するものの差周波数は変化しない状況が実現されて、この場所では誘導散乱が生じます。つまり、光パルスではなく連続光による技術なのですが、光ファイバに沿って位置選択的に誘導散乱を起こすことができて、光ファイバの端から出射される散乱光のスペクトルは、上記の特別な場所でのブリルアン散乱スペクトルを見せてくれることになります。この特別な場所は、レーザへ加える変調周波数を変えることで移動でき、分布型センシングが実現できます。
 BOCDA法は、光パルス技術ではありませんのでBOTDR法のような空間分解能と歪や温度の測定精度との間のトレードオフはありません。したがって、高い空間分解能が達成できます。この際にも、速いデータ測定装置は不要です。また、光パルスは光ファイバを端から順次測定していくのに対して、BOCDA法では測定位置をレーザの変調周波数により自由に決められますので、端から順次測定する必要はなく、また光ファイバに沿って全体を測定する必要もなく、必要な個所だけを渡り歩きつつ測定できます。これを、ランダムアクセス性といいます。また、連続光を使っていますので、信号対雑音比が光パルス技術よりも優れていて、結果として、速い測定が可能です。上記のランダムアクセス性と共にこの高速測定性を利用すると、予め決めておいた光ファイバに沿う任意の複数の場所で起こっている歪の時間変化を、同時に時間の関数として測定することもできます。
 これまでにBOCDA法で達成された性能をまとめると以下のようになります。 
  • 最高空間分解能:1.6 mm
  • 1点当たりの測定速度の最速値:1000サンプル/秒でBFSを測定
  • 空間分解能と分布測定領域長:7 cmの空間分解能で1030 mの測定領域長
  • ランダムアクセス性:200サンプル/秒で光ファイバに沿う任意の位置にランダムアクセスしつつBFSを測定 
 BOCDA法は、まだ実用化はされていませんが、幾つかの試作機は作られています。たとえば、3 cmの空間分解能、500 mの測定領域長、70サンプル/秒のBFS測定速度、といった性能の試作機ができています。BOCDA法の応用開拓研究例は次の通りです。
  • 直径15 cmのパイプ周囲の歪分布を空間分解能1 cmで測定
  • 0.1 mm程度のコンクリート表面のクラックを埋め込んだ光ファイバによる歪分布測定から検出
  • 超高層ビルモデルの地震振動下での多点同時時間分解歪測定
  • 航空機用CFRP材料のボルト接合部分の劣化検出
  • 小型ビジネスジェット機に光ファイバを実装して、飛行中の歪分布測定と多点同時時間分解歪測定を実現     
 BOCDA法では、光ファイバの両端からポンプ光とプローブ光を入射して誘導ブリルアン散乱を利用していますが、光ファイバの一端から入射した光による自然ブリルアン散乱を用いて、BOCDAと同様にレーザ周波数を変調することによって光ファイバに沿う一点でのBFSを測定する技術も提案・開発されています。こちらは、BOCDR法と呼ばれます。BOCDA法より開発の歴史が短く、まだ基礎研究段階ですが、既に、1 cmの空間分解能や50サンプル/秒のBFS測定速度などが実現されています。
 また、BOCDA法に関連して、最近、温度と歪を一本の光ファイバによって、同時に分布的に測定できる技術も提案されています。ここでは、直線偏波を維持したまま伝送できる偏波維持光ファイバを用います。1つの直線偏波(x偏波)を使って、ポンプ光とプローブ光を対向伝搬させてBFSを測定します。このとき、誘導ブリルアン散乱に伴って生じている比較的強い超音波による屈折率回折格子ができています。この回折格子の周期がブラッグ条件を満たす適当な周波数(波長)の直交直線偏波(y偏波)を入射すると、この光もブラッグ反射されます。ただし、偏波維持光ファイバでは、2つの直交直線偏波が感じる屈折率は異なるので、この屈折率差(複屈折といいます)に対応して、y偏波がブラッグ条件を満たす光周波数はBFSとは異なります。
つまり、ここでは、異なる2つの情報が得られます。この2量の温度と歪への依存性を調べたところ、互いに符号が逆であることが分かりました。つまり、この2量を測定してから簡単な方程式を解くことで、温度と歪を同時に分離して測定できることになりました。BOCDA法によって、約10 cmの空間分解能で、温度と歪を同時に分布的に測定する実験が行われています。
 BOCDA法ならびにBOCDR法もBOTDR法と同様に、我が国で発明された国産オリジナル技術です。BOCDA法は、我が国の計測器メーカー、航空機関連企業、ならびに土木建築関連企業でも開発研究が進められているばかりでなく、韓国の大学や国立研究所、イギリスの大学など、海外でも研究が展開され始めています。

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