施工保守編<その1>
06_化学的反応性について考慮すべき事項
化学的反応としては、「腐食性」、「溶解性」、「酸化性」と「合成性」に分類します。
腐食性とは、錆発生現象があることを意味します。溶解性とは溶ける現象が生じる場合です。酸化性とは空気中の酸素と反応する現象を意味します。合成性とは別の化合物が生じること意味します。これらの現象が生じると、部材の外観的および機械的強度の劣化やセンサの性能の低下が生じます。見落としがちな、特に気を付けなければならない具体例を以下に示します。
1.腐食性
大気中の酸素による錆を発生しない鋼としてステンレス鋼はよく知られています。しかし、計測対象と部材が炭素鋼とステンレス鋼の組み合わせで接触していると、ステンレス鋼に電気腐食現象が生じます。金属どうしを絶縁するか電気腐食現象が生じない金属の組み合わせを選定する必要があります。海水中に含まれる塩素やフッ素というハロゲン系元素によりオーステナイト系ステンレス鋼に腐食が生じます。この腐食は金属の結晶粒界に選択的に生じますので、外観上はほとんど変化が認められませんが外力が働くと曲がる前に折れてしまうほど脆化が著しい現象です。水分があるとこれらの現象は加速されます。粒界腐食を生じない材質を選定する必要があります。
2.溶解性
ケーブルのシース材として使用されているポリエチレンなどは油に溶けます。有機系高分子材料である樹脂と有機溶媒との反応性は必ず確認する必要があります。最近の雨水は酸性化しており、屋外に設置されている部材についてはこの点を考慮する必要があります。耐酸性の材質や塗料を選定します。光ファイバは石英系のガラスで構成されていますのでほとんどの物質には溶解性はありませんが、フッ化水素には溶けますので、注意が必要です。
3.酸化性
腐食を伴う酸化現象については腐食性の項を参照して下さい。ここでは腐食を伴わない酸化性について説明します。高分子材料である樹脂は空気中の酸素との反応や紫外線を受けることによっても低分子化が進行し、機械的強度が劣化します。シース材として使用されているポリエチレンにもこの現象は生じます。この点を考慮した架橋ポリエチレンや高密度ポリエチレンもあります。ポリ塩化ビニル、シリコン、ポリプロピレンやテフロンなど、他の樹脂の選択も、コストとのバランスを考慮して検討する場合もあります。
4.合成性
酸化、溶解や腐食を伴わない化学反応による合成を説明します。最も留意しなければならない反応は光ファイバと水素の反応です。水素は光ファイバの石英系ガラス中を簡単に拡散します。光ファイバを水素センサとして利用することがあるくらいの迅速さです。その水素により光の伝送損失が増加します。窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下に曝すと、石英系ガラス中の水素は不活性ガス雰囲気にパージされ伝送損失は改善されます。加熱すると、水素の拡散は加速されます。石英系ガラス中に水素を長く放置しておくと、石英系ガラスの酸素と結合してO-H基が生成されます。これが生成されると、簡単には分解できず伝送損失の改善はきわめて困難になります。対策としては、水素雰囲気では使用しないことにするしかありません。水素に対する反応速度ほど早くはありませんが、水に対しても同様の反応をしますので、撥水のための樹脂被覆や金属管などの保護構造の適用が肝要です。